回復の4つのカギ

回復のモデル(1) (2)」では問題からの回復の道筋を見てきましたが、ここではそれを実現するための具体的なテクニックについて論じたいと思います。

問題からの回復の具体的なテクニックとして大きな柱になるのは

1) 自己肯定感を高めること

2) パワーゲームを降りること

3) 過去のメッセージを検証・解毒すること

4) 新しい、より健康的な人生のスキルを学ぶこと

以上の4つなのではないかと思います。

むろん、これは管理人の考えで「回復の方法」を大ざっぱに分類したものですし、「回復のモデル」でのACの抱える問題の分類についても同様です。

ですから、回復の方法はどうしてもここに書いてあるとおりでなければならない!ということは全くありません。これから上記の4つの分類に従って回復のテクニックについて論じていきますが、どうぞクリエイティブになって、自分の気づいたり新たに発見した心理学・実生活上のテクニックも加え、自分のオリジナルの「回復プログラム」をどんどん作って実践してみてください。


1) 自己肯定感を高める

「アファメーション」という方法

「自分は今のあるがままで、愛すべき、価値のある人間なのだ」という確信を高めていくことです。

「そんな! そのままの自分なんて、そんなことをしたら自分を甘やかすことになる! そしてだらしない人間になって、もっと人から嫌われる!」という心の中の批判者の声が聞こえてくるかもしれません。しかし、私たちACは「そのままの自分で価値がある」という確信を持てなかったがために、そのみじめさを覆い隠そうとして「人と比べて上か下か、勝ったか負けたか」のパワーゲームに走り、嗜癖に走り、自己処罰に走り、その結果他人に漠然とした恨みを抱くようになって人間関係が破綻する、あるいは人間関係を恐れて引きこもる、ということを繰り返してきたのではないでしょうか。あるいは「そのままの自分はだらしがない、道徳的に劣った、悪い存在である」という懲罰的な声によって、生活のすべての喜びを自分から奪う強迫的コントロール中毒者と、反逆としての自己破壊的な放縦に嗜癖する欲望の怪物という、二重人格的なゆがんだ自己へと引き裂かれてしまっていたのではないでしょうか。

だとしたら、ともかくもその「あるがままの自分は悪であり、愛されるはずがない」という懲罰的なメッセージを、180度方向転換してみる価値は大いにあると思います。親や周囲に植えつけられてきた、病んだ非生産的な内面の声を、「あるがままの自分は愛すべき、価値のある人間なのだ」という新しい信念に書き換えるのです。

ポイントは「今のあるがままで」「無条件で」、つまり自分は頭がいいからとか他人に優しいからとか勤勉だからとかそういう価値判断をも一切抜きにして、まるごとの自分を価値のある、愛すべき人間として見ることです。

他人との関係において「まるごとのワタシを100パーセント受け入れて!」なんてまともに要求すればもちろん双方ともくたびれる関係に終わりますが、アファメーション(自己肯定)とはあくまで「自分自身との関係の持ち方」の問題です。また心配しなくても、「あるがままの自分が価値がある」イコール「一切努力してよくなろうとしなくてもいい」という怠惰へ走ったりはしないものです。いま現在の自分が本当に大切な存在だと思えるからこそ、本当に自分のことを考え、自分で自分の世話を焼き、本当の意味でより向上しようという気持ちも生まれてくるのだと思います。

さて、具体的なアファメーションのやり方ですが、たとえば「アファメーションのための本」と銘打たれた西尾和美『心の傷を癒すカウンセリング366日 - 今日一日のアファメーション』には、1年366日分のそれぞれ違ったメッセージの最初に、次のような基本メッセージがあります。

自分は生きるのに、あたいする人間です。
自分は、自分のままでいいのです。
自分は愛するに、あたいする人間です。
自分は、自分の居所をつくっていいのです。
自分を、うんと好きになります。

このような、「今のあるがままの自分は愛すべき、価値のある人間なのだ」というメッセージを、毎日、機会があるたびに自分の心に向かって語りかけること、これがアファメーションの基本です。

方法としては、一日一回、あるいは数回、自分で声を出して読み上げてもいいし、写経のように紙に書き写してもかまいません。あるいはアファメーションの言葉を書いた紙を定期入れに入れたり文庫本のしおりにして機会あるごとに目を走らせるのもいいし、一人暮しや家人の目が気にならない人なら標語ポスターのように部屋の壁に貼っておくのもいいでしょう。あるいはエンドレステープに録音して寝ている間じゅうアファメーションの言葉を子守歌のように流すのもいいですし(くれぐれも睡眠の邪魔にならない優しい声で!)、サブリミナルメッセージをパソコン画面に表示させるフリーソフトなんてのもあるようです。自己催眠や瞑想などの深いリラックス状態でアファメーションの言葉を自分の心に語りかけるのはとても効果的な方法です。西尾和美『今日一日のアファメーション(CD版)』や、タカイチアラタ『10日間イメージトレーニング』、ポール・マッケンナ『7日間で人生を変えよう』など、自己肯定感を高める言葉やイメージワークの入ったCDもいくつか市販されています。

このようなアファメーションの言葉は日常生活の用事の中でほとんど私たちの意識にのぼってくることはありませんが、毎日語りかけを続けることによって、私たちの無意識の中に確実に蓄積されてゆきます。

人間の脳は生まれてから現在まで経験したり考えたりしてきたことのすべてを記憶していると言われています。このうち、私たちの心が普段の思考の中でとらえている「意識」の部分は約10パーセントであり、残りの90パーセントは忘れ去られたようにみえても、「無意識(潜在意識)」の中へと蓄積されています。そして船の舵をとるように私たちの人生の方向を決めているのは、この90パーセントの無意識の部分であると言われます。

アファメーションもまた無意識の中に蓄積されることによって、いつの間にか私たちの人生をより健康な方向へと向かわせるように働くわけです。


無意識に語りかけるための「文法」

アファメーションの言葉を無意識がダイレクトにキャッチして、より効果的に人生の舵取りをするために、無意識の世界へ語りかける言葉のテクニックがいくつかあります。

1) 手に入れたい状態は、現在形・完了形で語りかける
過去に起こった出来事でも、それにまつわる強い感情があるかぎり、まるで現在起こっていることのように今の生活に影響を及ぼしたりすることから分かるように、無意識の世界には過去・現在・未来といった時間軸も、想像と現実の区別もありません。そして、無意識の性質とは、まさに正確に「想像したとおりの状態」を手に入れようと働くことです。
これが何を意味するかというと、「私はいつか○○になれる…」と語りかけていると、その「いつか、いつか…」と「憧れている状態」ばかりを実現させてしまい、本当に望むゴールはまるで竿の先にぶら下げたニンジンのようにいつまでたっても手に入らない、ということです。
ですから、自分の望む状態は「今、すでにそれを手に入れてしまっている」と語りかけます。「私は今すでに、自分の望む状態になっている、自分の望むものを手に入れて楽しんでいる…」と語りかけながら、あたかもその言葉が本当であるかのように、望むゴールを手に入れた状態をいま現在のことのようにありありと想像するのです。

例) ×「私はいつか自分を好きになれる」 → ○「私は今の私が大好きだ」

2) 肯定形で語りかける
無意識の世界はイメージの世界なので、「否定形(〜がない、〜ではない)」を理解しません。
これがどういうことかというと、論理的な言葉を一切使わず、イメージ(映像)だけでもってたとえば「リンゴがない」という状態を表現することを考えてみてください。まずそのなくなった「リンゴ」とは何なのかを説明するために「リンゴ」の絵を示し、それから「そのリンゴというものがなくなった」絵を示すことで、比較によって説明しなくてはならないはずです。そして無意識は、「リンゴ」と「リンゴがない」の2枚の絵をキャッチしてしまうことになります。どちらがより鮮明にアピールするかというと、むろん、「リンゴ」が存在する方です。
There is...

An Apple
No Apple
つまり、たとえ否定形であっても「○○にならない、○○でない」という「望まない状態」を思い描いてしまうことで、無意識がそれをキャッチし、まさに望んでいなかったはずの状態を手に入れてしまう、ということが起こります。
ですから、自分の望む状態はつねに肯定形で、具体的に思い描くことです。

例) ×「私は親のようにならない」「私は自分いじめをやめる」 → ○「私は愛情を持って生きる」「私は私に優しくする」

3) できるだけ簡素で平易な言葉で語りかける
無意識は基本的にイメージの世界であり、言葉だけで構築された抽象的な概念というものをあまり理解しません。ですから、無意識に語りかけるときには、子供でも分かるような、なるべく平易な言葉を使うのが有効です。

例) ×「私には自分を肯定する権利がある」 → ○「私は、あるがままの私でいてもいい」

このようなことを念頭において、シンプルで自分の心の琴線に触れてくるようなオリジナルのアファメーションを作ってみます。前出の『今日一日のアファメーション』や、ウィットフィールド『内なる子どもを癒す』の中の「個人の権利宣言」、ブラッドショー『インナーチャイルド』の「インナーチャイルドへの確認の言葉」などを参考にしてもいいと思います。

あまり多くを一度に作ろうとせず、5文前後くらいがいいと思います。最初のアファメーションの言葉を自分の心がすでにしっかりキャッチしたなと思ったら、あるいはどうも言葉がしっくりこないなと思ったら、また次のアファメーションを考え出せばいいのですから。また、「あるがままの自分を肯定する」というテーマ以外に、1、2文くらい、具体的な問題解決のためのアファメーションを入れても構わないでしょう。

試しに管理人が作ってみたアファメーションは、たとえば次のようなものになります。

私は、私が好きです。私は私を、かぎりなく愛しています。
私は、本当の私でいていいのです。私は、「今」を生きていいのです。
私は、今のあるがままで価値のある、素晴らしい人間です。
私には、幸せになる力が備わっています。そして、実り多い人生を歩きつづけています。
私は今、人生を楽しんでいいのです。人生が私にもたらす恵みを、最大限に受け取っていいのです。

これをさらに強力に心の中へインプットするためのテクニックがあります。

私たちが生まれてからの人生の中で、自分自身についての信念を形成してゆくプロセスには、次の3つの道筋があります。

1) 自分でいろいろ行動することによって、自分の能力や自分自身について知る…「私は○○だ」
2) 人から自分について直接何か言われて、それを本当だと思い込む…「あなたは○○だ」
3) 第三者が自分のことや周りの世界のことについて語るのを聞いて、それを本当だと思い込む…「△△さんは○○だ」

これらはそれぞれ、1人称、2人称、3人称というすべての人称に対応しています。これと同じことを、アファメーションでも行なうわけです。つまり、すべての人称を使って、アファメーションの言葉を自分に語りかけるのです。たとえば、上のアファメーションなら、次のようになります。

(1人称)
私は、私が好きです。私は私を、かぎりなく愛しています。
私は、本当の私でいていいのです。私は、「今」を生きていいのです。
私は、今のあるがままで価値のある、素晴らしい人間です。
私には、幸せになる力が備わっています。そして、実り多い人生を歩きつづけています。
私は今、人生を楽しんでいいのです。人生が私にもたらす恵みを、最大限に受け取っていいのです。

(2人称)
あなたは、あなたが好きです。あなたはあなた自身を、かぎりなく愛しています。
あなたは、本当のあなたでいていいのです。あなたは、「今」を生きていいのです。
あなたは、今のあるがままで価値のある、素晴らしい人間です。
あなたには、幸せになる力が備わっています。そして、実り多い人生を歩きつづけています。
あなたは今、人生を楽しんでいいのです。人生があなたにもたらす恵みを、最大限に受け取っていいのです。

(3人称)
○○さん(あなたの名前)は、自分が好きです。○○さんは自分自身を、かぎりなく愛しています。
○○さんは、本当の自分でいていいのです。○○さんは、「今」を生きていいのです。
○○さんは、今のあるがままで価値のある、素晴らしい人間です。
○○さんには、幸せになる力が備わっています。そして、実り多い人生を歩きつづけています。
○○さんは今、人生を楽しんでいいのです。人生が○○さんにもたらす恵みを、最大限に受け取っていいのです。

アファメーションはシンプルな、しかし確実にじわじわと効いてくる方法です。「洗脳」と言ってしまえば聞こえは悪いけれど、原理的には同じことです。私たちが自分の選んだ信念のフィルターでもって世界を見ているのなら、その信念自体を、より健康的で自分の人生に役立つものに変えてみよう!というのがアファメーションの考え方です。

子供の頃、親や周囲に病んだ信念を植えつけられた記憶そのものは消えませんが、自分の心の中でその記憶の「重要度」を変えていくことによって、病んだ環境にいた時間より短い時間のうちに記憶を無害化することは可能です。病んだ信念と、より自分のためになる健康な信念とがぶつかり合ったなら、私たちの心はかならず、より健康で無理のない、自分自身に役立つ信念の方を採用するようになってゆきます。

大切なことは、習慣づけです。病んだ信念による「どうせできっこない」という惰性でもって放り出して忘れてしまっても、また思い出したら続けることです。自分を「意志薄弱」と責めることはありません。忘れたらまた思い出し、倒れたらまた起き上がればいいのですから。そうしていくうちに、必ず、自分の行動様式がより健康なものへと変わっているのに気づくと思います。


参考文献:
心の傷を癒すカウンセリング366日 - 今日一日のアファメーション』 西尾和美 講談社+α文庫
「自分のために生きていける」ということ』 斎藤学 大和書房
内なる子どもを癒す』 C. L. ウィットフィールド
インナーチャイルド』 ジョン・ブラッドショー NHK出版
Superlearning 2000』 S. Ostrander、L. Schroeder Souvenir Press
『Introducing NLP』 J. O'Conner、J. Seymour Harper Collins


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