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理由を明示せずに「NO」と言う権利

外交関係に関するウィーン条約
第九条 1 接受国は、いつでも、理由を示さないで、派遣国に対し、使節団の長若しくは使節団の外交職員である者がペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)であること又は使節団のその他の職員である者が受け入れ難い者であることを通告することができる。その通告を受けた場合には、派遣国は、状況に応じ、その者を召還し、又は使節団におけるその者の任務を終了させなければならない。接受国は、いずれかの者がその領域に到着する前においても、その者がペルソナ・ノン・グラータであること又は受け入れ難い者であることを明らかにすることができる。



女性は自分にのぼせあがって付きまとってくる男性に対し「今はちょっとそういう関係になりたくないの」などと言って断ろうとするが、ことにストーカーのような男性は「今はちょっと」の部分しか耳に入らず、「今がだめなら後で」関係を持つ可能性もあるということだ、というふうに都合よく解釈するのが常である。この場合、拒否の言葉は「あなたとはそういう関係になりたくないの」であるべきだろう。もっとも、ここまで言葉の意味が明白であっても男性の側が聞き入れようとしないこともあるが。

「なぜ拒否するのか」をいちいち説明すると、このタイプの男性は示される理由のひとつひとつに挑戦し自分の要求を通す糸口を見つけようとするものだ。女性は「なぜ関係を持ちたくないのか」を一切説明することなく、ただこれは自分自身が考えて出した結論であり、そのことを相手に尊重して欲しいのだ、ということを明確にした方がいい。関係を持ちたくない相手に対し、自分の人生や今後の計画や恋の選択についての込み入った話をせねばならない義理がどこにあるだろう? 他の街に引越したいから、というような、理由・条件にもとづいた拒否は、ストーカーのような男性に挑戦の糸口を与えるにすぎない。条件つきの拒否は拒否ではない――それは「交渉」である。


出典:(上段)外交関係に関するウィーン条約
(下段)Gavin de Becker 『The Gift of Fear』 (Broomsbury)

下段はストーカーに対する「拒否」ということを論じた文章ですが、筆者のGavin de Beckerは同じ章の中で「ストーキングとはデートレイプときわめてよく似た、パワーとコントロールと脅迫の犯罪である」と述べています。そしてあらゆる種類の“好ましくない追跡者”に対する基本ルールは「交渉しないこと(Do not negotiate.)」であると言っています。理由・条件を示すことは相手に食い下がる糸口を与えることに他ならないからです。

このことはストーカーに限らず、コントロール・過干渉の親であるとか、「NO」と言えないACが社会に出て餌食になってしまいやすいモラル・ハラスメントの加害者などについても言えることではないかと思います。

私自身も「人に悪い印象を与えてはいけない」が小さい頃からの母親の至上命令で、何かについて「NO」と言おうとするたびに「そんな言い方は感じ悪い、非常にオトモダチをなくすわよ? 理由を言わなきゃ分からないでしょ?」と言われ、そして“理由”を言えば結局そこにつけ込んでコントロールされる、ということを繰り返してきたため、都市部に出たばかりの頃、変質者だのナンパだのキャッチセールスに会っても「サッサとかわす」ということができず、そのことについてまた「私に隙があったんだ」と考えて二重のトラウマになってしまう…ということをじつは繰り返していました。だからこのこと――「ヤバい相手だと思ったら、ともかく一切ネゴシエーションの糸口を与えずにNOと言う権利がある」ということを知ったとき、本当にラクになった!という感じでした。

(蔦吉)