問題解決モデル
問題解決スキルを身につけている子ども達はいろいろな利点をもつことになる。体系的な問題解決の方法を教えられた子どもは、さまざまな欲求不満やストレスに対して効果的に対処しようとする。さらに、問題解決能力は学業成績にも積極的な影響を与えるようである。さらにまた、ある研究によると問題解決スキルに優れた子どもや青年ではアルコールや薬物嗜癖、それに非行にはしるようなことが少なく、そのほか心理的問題をもつこともほとんどないということが示されている。このことはともあれ、子どもが自立的に問題を解決する能力を身につけることは子どもが誇りや健全な自尊心をもつための基本的な資質となる。 問題解決には感情、認知、行動の各領域が関係している。感情の動きはしばしば解決すべき問題が存在することを知る最初の手がかりとなる。そして、次に認知の働きにより、問題を明確にし、問題解決のための策とその結果について考え、それらに基づいて最も良い解決策を実施するための計画を立てることになる。そして最後に行動面の技能がそれら一連の計画をうまく実施するのに必要である。 【問題解決のためのステップ・モデル】 1) 第1ステップは問題が存在することに気づくことである。それには怒りとか、悩みとか、悲しみとか、あるいはその他の不快感がないか自分の感情をよく監視することである。そして、何らかの不快感があるようであれば、それが問題解決の最初の手がかりになる。 2) こうして、何か問題がありそうだということが見つかったら、まずは、物理的ないしは精神的に、その状況から距離をおき、何が問題なのかをみきわめる。 3) いったん、問題点が明確になったら、それを解決するための目標を決める。つまり、その状況において最も望ましい結果とは何であるかをみきわめるのである。 4) それから、その問題を解決できる多くのいろいろな方法を考える。この時点では、その方法に実施上、いかに無理があっても、そうした評価はせずに、とにかく解決に可能な方法を考え出す。 5) 次に上で出した各々の方法を用いた時に、起こりうる結果について考える。 6) これによって、優れた解決策がいくつか明らかとなってくる。そこで優れていると思われる解決策の中から、それらを実施する時にどれが容易でどれが難しいか、あるいはどの方策が最も好ましい結果をもたらすかを考慮しながら、1つの解決策を選び出すか、またはそれらのいくつかを組み合わせてみる。 7) 最後に、選ばれた解決策を実行していくための計画を立てる。その際、事前にその計画の各ステップについて慎重に検討してみる。 例: たとえば、アンドリアという名前の女の子が友達と遊んでいたとする。みんなでとても楽しく遊んでいたのだが、そこにジャニーという子どもが近づいて来て、仲間にいれてと頼んだ。でもジャニーはクラスのみんなからあまり好かれてはいなかった。というのはこのジャニーは変わった服装をしたり、変わった行動をしたりするので、他の子ども達から変わり者と思われていたからである。そこで、そこにいた何人かの子ども達がこのジャニーをからかい始め、仲間にいれて遊ぼうとはしなかった。アンドリアもこのジャニーが特に好きというわけではなかった。でも友達がジャニーをいじめるのはアンドリアにとって、気持ちのよいものではなかった。 【問題解決モデルの利用】 1) 問題に気づく。つまり、ジャニーが嫌な思いをしているだろうとの共感から生まれてくるアンドリアの不快感は、彼女が解決すべき問題を抱えたことの手がかりである。
2) 沈思黙考する(Stop and Think)。アンドリアにとって何が問題なのか、そしてどうすべきなのか、これがはっきりするまでは行動はひかえる。そして、その状況について考えたあげく、アンドリアは「人をからかうことは良くないことだと自分が考えている」ことが問題だと分かった。 3) 目標を決める。それは他の子どもにジャニーをからかうのを止めさせることである。 4) 可能な解決策を考える。 (a) アンドリアは他の子どもにジャニーをからかうのを止めるように言うことができる。
(b) アンドリアはジャニーと2人だけで遊ぶこともできる。 (c) アンドリアは怒って、他の子どもたちに「そんな馬鹿げたことは止めなさい」と怒鳴ることもできる。 (d) アンドリアは先生にこのことを言いつけることもできる。 5) 上記のそれぞれの解決策から生まれる結果について考える。
(a) の場合、他の子どもたちはアンドリアの言うことを聞くかもしれない。あるいはアンドリアの言うことを無視して、今度はアンドリアをもからかうかもしれない。
(b) の場合、子どもたちはジャニーをからかうのをおそらく止めるであろうが、今度は他の子どもたちとアンドリアともうまくいかなくなるであろう。 (c) の場合、他の子どもたちもアンドリアに対して怒るだろう。そしてジャニーをからかうのを止めるかもしれないし、止めないかもしれない。 (d) の場合、先生はジャニーをいじめるのを止めるように子どもたちに言うだろうが、他の子どもたちはアンドリアをつげぐち屋だと思うようになるだろう。 6) 最も良い解決策を選ぶ。アンドリアは自分の目標を達成する上で一番良いと思われる「友達にいじめないように話す」方法を取ることにする。
7) この解決策を実施するための計画を立てる。アンドリアはどのように話せば相手に効果があるか、その話し方を知っていた。アンドリアは「みんなこちらにおいでよ、ゲームをする方がずっと面白いわよ。」といって、みんなの注意を直接ジャニーからはずし、遊びに引き戻すようにすることにした。もしも皆がそれにすぐには従わない場合には、友達の中の1人か2人と一緒にゲームを始めるように働きかけ、それに他のみんながついてくるようにする。 問題の解決策は、良いものと悪いものとが最初からはっきりとしているのではない。したがって、考えられる可能な解決策の中から各々の予測される結果をもとに、最も良い解決策について判断しなければならない。実施される解決策はそれが成功することが鍵となるが、実施の時点になると、社会的スキルが非常に必要である。(子どもに)教示をうまく与え、上記のような経験を重ねさせることで、子ども達は問題解決能力を非常に向上させ、良い解決策が見つけられるようになり、それをうまく実施するようになるものである。
出典: 『自尊心の発達と認知行動療法』 A.W.ポープ/S.M.ミッキヘイル/W.E.クレイグヘッド共著 岩崎学術出版社 ソースである本は、副題に『子どもの自信・自立・自主性をたかめる』とついているのを見てもわかるように、主に教育者・治療者が子どもに問題解決や自尊心を高めるスキルを教えることを目的に書かれたものなのですが、私たちACにとっても役立つものなのではないかと思います。とくに「問題解決スキルを身につけた子どもは嗜癖などの問題におちいることが少ない」とあるのを逆に取れば、私たちACは親の侵入や感情の否認が蔓延している家庭で問題を解決するスキルを十分に発達させることができなかったからこそ、「問題解決を回避する方法」としての嗜癖や感情鈍麻が身についてしまった、ということもできるのではないかと思います。(蔦吉) |