「最近のお父さんね、書庫の片付けばっかりしてるんだよ」 母が不安そうに電話で言ってきたわけ。 ちょっとずつ落ち着きのなくなってきた最近の父の言動や行動には、私も気になってたところだったんだよね。 だから、母に言ったんだよ。「血圧の変動とかでも精神的な不安定さは出るらしいから、病院で検査してもらった方がいいんじゃない?」ってね。 連れ合いの「惚け」ということを恐れる母は、「そんなのヤダ!」と言い放ったかな。 「惚けとかじゃなくてぇ、初老期のうつ病とか、まぁよくある話なんだってばぁ」とちゃんと説明したんだけどね。聞こえないんだよね?私の声はさ。
父が、お醤油皿の外にお醤油を注して「あれぇ、注げないや」なんてやってたわけ。母は「やだなぁ、お父さんは」と、不機嫌に父を叱ってね。 だから母に言ったんだ。「お父さんの目、もう片方全然見えてないんだよ。危ないから、車の運転はやめさせた方がいいよ?」ってね。
田舎では、車がないととっても不便なんだよね。だから前に言ったでしょ?父が初めて本格的な入院になった時。 母はまだ40代だったから「今のうちに、お母さんも免許を取ること考えた方がいいよ?」ってね。 「ヤダぁ、車の運転なんて怖くって」が答えでしたっけね。
ヤダで済むなら、誰だって苦労はしないんだけどね。そこから先は、いつだって思考停止だものね。 実際に困ることができてから、「そんなこと言ったってぇ」となるんだったよね。
「お父さんには一人で運転させないから大丈夫だよ」「それに、近場でしか乗らないようにするから」ということでしたよね。 でも父は、通院は一人でしてて、その帰りに「帰って来ない人」になったんだったよね。
視力の点でも、精神の部分でも、父にハンドルを握らせてはいけなかったんだよ。 それを理解してる人間だけが、罪悪感に苦しむことになるわけだけどね。 だから母は、そんなことでは苦しまない。ちょうど一月前に亡くなった祖母(父の母)を持ち出して、「おばあさん、なにもうちのお父さんを連れて行っちゃうことないんねぇ」なんて言ってましたもんね。
解かってるのに・・・私はいつも口を塞がれるんだ。 いつもなんとかしたいと思ってるのに、私に協力してくれる人はいないしね。 いいから黙って見てろ!ってね。でも、責任はお前が背負うんだぞ!ってね。
責任を取らない人達の集団だからさ。お相手の立場では考えない人達の集団だからさ。
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