私は自分の父が人を殺すところを見た。
私が高校生だった頃、 私の家にはいつも怒鳴り声が響いていた。
父が仕事から帰って来ては、酒を飲み、祖父を罵倒するのだ。 それは凄まじいもので、私の父は祖父に、包丁を突き出しては、 遺書を書き自殺しろと迫っていた。
ある時、私が2、3日家を空けたことがあった。 家に帰ってみると、祖父の顔半分が紫色に変わっていた。
“あぁ、父親が殴ったのだ。”
祖父は健気にも、その傷を私から隠そうとする。 父が祖父を殴ったことを私が悟ったら、 私と父親が大喧嘩になることを祖父は知っていたから。
でも、私の中に、それほど怒りは沸いてこなかった。 代わりに涙がでそうになった。 そして、ただ、冷静に、
“あぁ、もう駄目だこの家は。”
と思っただけだった。
思えばこの時、私は彼らを見捨てたのだと思う。 これ以上かかわると、もう自分の精神的が崩れてしまうと思ったから。
それから、私は夜中の怒鳴り声に対し、全く反応を示さなくなった。 喧嘩を止めに入ることもなくなった。
そして半年後、祖父は自殺した。
私は母から、虐待に近い過干渉を受けていた。 行動の一切を、私は、母の許しなしに動けなかった。
でも、その苦しみなど、 この祖父の死の際に受けた衝撃に比べたら、 何でもないように思えた。
私には、殺人者の血が流れている。
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