グループの種類と回復モデル

グループとひとくちに言っても営利・非営利ふくめて色々なグループがありますが、自助グループなどに参加する際、「今自分が何をしようとしているのか」のイメージをたとえボンヤリとでも持っておくと、回復により効果的なのではないかと思います。

以下は精神科医の斎藤学氏が著書『アダルト・チルドレンと家族』の中で提示している、回復の段階モデルとそれぞれの段階に応じたグループの役割です。これらの諸段階がモデルどおりに一直線に進むことはなく、むしろバラバラにステップを飛ばしたり後戻りしたりして起こるのが普通だと思いますが、「回復」ということのイメージを明確に持っておくために大変参考になるのではないかと思います。

回復の段階
【段階1】 【段階2】 【段階3】
治療課題 安全性の維持 回想と悲嘆 人間関係の再建
話題にされる時制 現在 過去 現在、未来
焦点 セルフ・ケア トラウマ 人間関係
メンバーの均一性 均一集団 均一集団 非均一集団
境界 柔軟、包括的 閉鎖 安定している
ゆっくりとメンバーが
入れ替わる
凝集性 中等度 非常に高度 高度
治療期間の制限 オープン・エンド
再参加
期間限定 オープン・エンド
構造 指示的 目標指向性 非構造的
12ステップ・プログラム サバイバル・グループ 対人関係をテーマにした
精神療法グループ
Herman, J. L.: Trauma and Recovery. Harper-Collins publishers, London 1992からの抜粋

【段階1】
自分自身の身体をふくむ「安全な場の確保」が課題。この時期に考慮されなければならないのは、まず情緒的安定。嗜癖や虐待的な人々から離れて、食事や睡眠などの安定を確保すること。自分の身を置ける場所があることが大切であり、他のメンバーから胸をえぐるような過去の苦痛な体験を聞くことは、まだこの時期の仕事ではない。
グループの例としては、AA(アルコホリックス・アノニマス)のような12ステップグループ。“12ステップ”のように明確な目標と指示が与えられており、参加者はグループの中でどのようにふるまえばよいか悩まなくてもいい。また、参加するかしないかが個人の自主性に完全に委ねられていること、回復の進め方の定型(プログラム)に乗るか乗らないかということも個人の自由であること、メンバーの平等性が強調されていて、専門家などの優位者による操作が排除されていること、メンバーの匿名性(アノニミティ)が重視されていることなど、メンバーの「安全」が慎重に配慮されている。


【段階2】
トラウマ体験を話す必要を感じるときというのは、すでに自らの解決課題が明瞭になっているときである。この時期の“「嘆き」から「癒し」へ”の作業は、同じ課題を抱えた比較的小人数(6〜8名)の閉じられたグループのなかで、期間を限定(通例8回程度、長くても6ヶ月を越えない)して行うのが効果的。この種のグループはサバイバル・グループと呼ばれる。
サバイバル・グループはトラウマ体験が極めて類似している参加者を対象に、治療者による強力なリーダーシップのもとに行なわれる。例としては、専門家によって行なわれるワークショップやサイコドラマ、性的被害やいじめ被害など特定のトラウマをテーマにしたグリーフワークのグループなど。

●グリーフ・ワークの第1相
第1相は警戒と否認の目立つ時期で、この段階ではあまり劇的な話は出てこない。トラウマにかかわる事件の経過が語られたとしても、それにともなう涙や怒りなどの情緒の表出がない。
こうした話し方はそれ自体「危険な情緒」が涌き出てくることへの抵抗を示していると解釈することもでき、治療者によっては、クライアントのストーリーが深まりすぎるのにブレーキをかけ、感情をよみがえらせることに焦点を当てる人もいる。あるいは、こうした話し方をクライアントの選択・熟慮の結果であるとして、このような自発性の中に秘められた「力」を尊重し、一切の操作をしない立場をとる治療者もいる。

●グリーフ・ワークの第2相
グリーフワークが進むにしたがって、回想は怒りや涙の中で語られるようになる。この段階でようやく「喪失とトラウマ」の問題が表面に出てくるが、これにともなって身体的な痛み・不調感、心理的な苦悩感・無力感などが目立つようになる。
グリーフワークとは「喪失されたものを嘆く作業」であり、その喪失とは愛着対象であったり、愛着対象であるべきものの裏切りであったり、自分の子ども時代の平安の喪失であったり、子ども時代そのものの喪失であったりするが、クライアントは喪失したものについて考えこみ、そのことをしきりに話したがるようになったり、失ったものを取り返そうという思いに取りつかれたりする。
「何をしてよいか分からない」「時間が止まってしまった」「自分がバラバラになってしまった」「生きる価値なんてない」…という気分を抱いたり、「うつ病ではないか」「精神病ではないか」と心配する人もいる。泣いたり、怒ったりが頻繁に、激しくなってくる。
この時期の後半に入ると、喪失したことがらの細かい特徴や価値についての細々とした描写が出てきて、同時に幼児期への退行(子ども返り)が多かれ少なかれ見られる。加害者への復讐の思いに駆られたり、加害者とみなす人への賠償取り立てを試みたり、逆に何もかも“許す”ことによって心の負担から逃れようとしたり、といった幻想(ファンタジー)の横道にそれやすい。
つまりこの第2相では、治療者の役割が厳しく問われることになる。
この段階が終わりに近づくと、苦痛と悲嘆がやや軽くなってきて、喪失ということの意味を考えようとしたり、喪失したものを欠いたままで人生をやり直すことを考えたりするようになる。

●グリーフ・ワークの第3相
この段階では喪失と嘆きの統合が行なわれる。
この時期がうまくいかなかった場合、というのは、グリーフワークの過程で生じた抑うつが長引き、身体的苦痛や心理的苦痛がその人の身についてしまった場合であるが、こうしたままだとその人の自尊心は低下し、その後の人生で再度のトラウマに巻き込まれることにもつながる。
グリーフワークがうまくいけば、トラウマ体験(喪失)という現実を受け入れたうえで、身体的にも心理的にも安定してくる。泣いたり怒ったりの回数が徐々に減り、程度も軽くなってくる。また自尊心と人生を楽しむ能力が増し、生活が多様で豊かになってくる。


【段階3】
「リコネクション(人間関係の再構築)」がこの時期の課題。過去の外傷から解放された後の、未来の創造にかかわる課題であり、自己を守り、自己を傷つける相手と戦うことを学習し、トラウマに再び出会うことを防ぐ術を身につけた新しい自己の創造である。夢想を具体的な計画へと変えてゆくためには、自己の限界を受け入れた上で、自己に備わった力を自覚し、それを着々と伸ばすことができるようになる必要がある。
アダルト・チルドレンに固有の「他人への不信感」はこの段階になって徐々に改善に向かい、治療者との面接場面やミーティングがこの「変化しつつある新しい人格」を現実に即してテストする場となる。

1) 将来の自己を傷つけるものと闘い、身を守る
危機に陥った自分をそこから救い出すためにあらゆる力をふり絞れるようになる必要がある。これができるためには、ある程度まで自尊心が回復していなければならない。
ジュディス・ハーマンは著書のなかで、ボストンのメリサ・スコットによる女性のための自己防衛訓練プログラムを紹介している。このトレーニングの最終段階ではモデルの務める強姦魔が訓練生をとことんまで追い詰め、「もうダメ」という段階になっても抵抗することを学ぶが、強姦のトラウマに悩む女性がこれに参加しようとしたとすれば、彼女はすでに被害体験を演技によって直視し、受け入れ、その過去が将来に影響を及ぼすことを拒否しようとしているのだと思われる。
このような危機管理的な訓練は、「身を守る」「自分の心身の不調を自覚し、それを緩和ないし回避する方法を会得する」という、より広いテーマの一環であり、「安全な場の確保」の段階で身につけた心身のケアの延長線上にある。

2) 闘ったり逃げたりする必要のない人を弁別し、共に過ごせるようになる
心身の不調や危機に対処するために、適切な医師や治療者を選択すること、「危険な場所」(たとえば自分を虐待する親や配偶者のいる家)から脱出すること、そのために必要ならば社会福祉的なケアを受けることも辞さないこと、そのためにソシアル・ワーカーたちから知識や援助を得ること、離婚などの法的手続きが必要な場合は、身を守ってくれる弁護士を探すこと、そしてこうした一連の動きを支持し、励ましてくれる「仲間たち」を得ること。
これらの新たな資産をより豊かに緊密にしていくうちに、自己を取り巻く人間関係が構築し直されていることに気づく。
ACの人間関係の成長は「親があのようである」ことを受け入れることから始まるように思われる。親を変えることの魅力から離れることができたときに、現在の自分のまわりに存在する暖かい人間関係に気づくようになる。

3) いままで蔑み嫌っていた自分自身との和解を達成する
過去の悲惨な状況を変えることはできないが、グリーフワークをしっかり経過した人々は、同じ出来事を語るにしても、“危地をくぐり抜けた者のゆとり”を聞く人に感じさせるようになる。
チャールズ・ウィットフィールドはこれを「犠牲者物語から英雄物語への転換」と呼んでいる。彼らの話は“現在のこと”が中心になってくる。もはや恨みの対象だった親は背景に引っ込んで、かつての悲惨で真っ黒で単調で宿命的な過去の話は、ところどころにユーモアを含んだ複雑で流動的で、未来へのいくつもの選択肢を含んだ話に取って変わられる。


破壊的なグループを見破る方法

「AC問題からの回復」に限らず、なんらかの問題やトラウマからの回復・成長を標榜したグループ、セミナー、ワークショップなどは、本当に良質なものから新聞ダネになるような胡散臭いものまで“玉石混交”なのが現状だと思います。

米国のカルト脱会カウンセラーであるスティーヴン・ハッサンは著書『マインド・コントロールの恐怖』の中で、破壊的カルトを「宗教カルト」「政治カルト」「心理療法または教育カルト」「商業カルト」の4つに分類しており、このうち「心理療法または教育カルト」の典型パターンについて次のように述べています。

心理療法または教育カルトは、ふつうホテルの集会室で何百ドルというワークショップやセミナーを開いて、「洞察」と「啓発」を提供する。これらのカルトは参加者に「絶頂」体験を与えるため、たくさんの基礎的マインド・コントロールの手法を用いる。大部分の参加者はこの絶頂体験で終わりになるが、ある人々はさらに操られて、高価な上級コースの契約をする。そしてこの上級コースの終了者は、その集団の網にからめとられてしまう。一度その集団の人間になってしまうと、メンバーは友人や親戚や職場の同僚を連れてくるか、逆にそういう人々と縁を切るように言われる。勧誘をするとき、自分たちのプログラムについてあまり口外することは許されない。自殺やむちゃな事故による死亡といった極端な例――じゅうぶん裏づけがある――は言わないとしても、これらの集団の多くは、メンバーに神経症や離婚や事業の失敗をひきおこしている。これらの集団の運営者には、疑わしい履歴はあるが、信用できる履歴は少ししかない、あるいは全然ないといった人々がいる。

そしてどのカルトも共通して、組織を離れることに対する恐怖心や現実に対する白黒発想的なものの見方などを助長することで被害者を幼児化・無力化し、組織への依存と忠誠を強化させるのが特徴であると述べています(ところで虐待的な「毒になる親」たちの手口もまた、こうしたカルト集団と似通っているような気がします!)。

このようなグループを見分ける手段として、ハッサンは「勧誘のごまかし」「メンバーシップの維持」「やめる自由」というポイントに基づいた8つの質問をしてみることを提案しています。質問はつねに率直に、また友好的な態度で行ない、答えも具体的なことを要求するのが効果的で、いずれの質問に対しても、はぐらかしや一般論が返ってくるようなら疑わしい集団である、としています。

1. あなた(勧誘者)自身はこれに入ってどのくらいになりますか。私を何かの組織へ誘おうとしているんですか。
勧誘について追求されると、多くのカルトの勧誘者は「いや、私はただあなたが好きになったので、このことを教えてあげたいだけなんです。この情報を聞いてどうするかは、まったくあなた次第です」などと答えるが、もしもそのグループが破壊的カルトなら、どこかの時点でやはり“勧誘”だったのだということ(つまり勧誘者が“勧誘じゃない”という嘘・ごまかしを使ってこちらを引きつけようとしていたこと)がはっきりする。

2. このグループと関係あるほかの組織の名を全部教えてくれませんか。
フロント組織の名前についての質問をすると、カルト勧誘者は大概不意をつかれて、どういう意味ですかとたずねる。具体的な答えを要求して、もし勧誘者が知らないと言ったら、では全部調べて書いておいてくれと頼む。もし相手が関係団体の名前はひとつもないと言っても、嘘をついていればどこかの時点で分かる。

3. 最高指導者はだれですか。どんな経歴と資格の人ですか。犯罪歴がありますか。
この質問には、率直な答えがあるかもしれないし、ないかもしれない。破壊的カルトのメンバーは、最高指導者の経歴や犯罪歴など本当に何も知らないこともあり、またそういうことを自分で探し出したりは決してしない。破壊的カルトは、重要な情報を明かす前に、まずその人に決心させてしまおうとする。まっとうなグループなら、いつもまず情報を提供して、本人がその気になったときにだけ、信じますかと訊ねるものである。

4. あなたのグループは何を信じているんですか。目的は手段を正当化すると信じていますか。事情次第では嘘も許されますか。
破壊的カルトの大部分の勧誘者たちは、何を信じているのかをすぐその場では説明したがらない。まっとうなグループなら、その中心となる信条をかいつまんで話してくれるし、また“人々を助ける”ために嘘をつく必要などない。

5. もしあなたのグループに入ったら、何をすることになるんですか。学校や仕事をやめたり、お金や財産を寄付したり、入会に反対する家族や友人から自分を切り離したり、そういうことをしなければなりませんか。
破壊的カルト勧誘者は、入ってもほとんど、あるいは何もすることにはなりませんと言うかもしれないが、それでもこの質問は大部分のカルトメンバーをとても落ち着かない状態にする。この質問をするとき、勧誘者の言葉以外の反応を注意して観察するといい。その人物がはじめてグループと出会ったとき何をしていたか、またいま何をしているかも訊ねる。

6. あなたのグループはだれかから問題があると見られていますか。もし人々があなたのグループに批判的だとしたら、その人たちのおもな反対点は何ですか。
多くのカルト勧誘者からこの質問に対して「ある人たちは私たちをカルトだとか、みんな洗脳されているとか思っています。バカらしいでしょう?私が洗脳されているように見えますか」といった答えが返ってくる。そこで「ええと、洗脳されていたらどんな感じに見えるはずなんですか?」と応じると、大概のカルト勧誘者はとても落ち着きがなくなる。

7. あなたのグループの元メンバーについてどう感じますか。元メンバーと膝を交えて話をして、その人がなぜやめたのか調べたことはありますか。なければ、そうしないのはなぜですか。あなたのグループは、元メンバーと交流することに制限を加えるんですか。
まっとうな組織はどれも、元メンバーとは接触しないように、などとは言わない。同じように、まっとうなグループなら、もちろんメンバーがやめていくのは望まないかもしれないが、しかしその人の決心は尊重する。一方破壊的カルトは、だれかが去っていく理由というものは何であれいっさい受け入れない。またカルトグループは、メンバーに恐怖心を注ぎ込んで、彼らが批判者や元メンバーと絶対接触しないようにする。

8. グループと指導者について、あなたがいちばん好きでない3つの事は何ですか。
一般にカルトメンバーは、自分のカルトや指導者について批判的なことを言うことを絶対に禁じられている。もし質問を続けるチャンスがあれば、「このグループのメンバーであること以外に、もっとしたいことがあるとしたら何ですか」と訊ねてみる。破壊的カルトメンバーの答えはおそらく「何もない」である。とどめの質問は、その人が自分の心を決めるために、元メンバーと話したり批判的文献を読んだりする時間を割いたかどうかである。ほとんど決まって、カルトのメンバーはこれを実行しない。

以上の8つの質問をそのまんま心理療法グループや自助グループなどにぶつけるといい、というわけでもないと思いますが、それでも、あるグループが個人の判断と批判能力と精神的成長を尊重するグループか、それとも破壊的カルトに見られるように個人の批判能力を奪って無力化・幼児化することで組織に依存させようとするグループかを見分けるための、たいへん参考になる質問なのではないかと思います。