大酒飲みやモルヒネあるいはコカインの中毒患者は、その病気を癒してもらおうと思い、医者の前にあらわれて、悪習を断ち切ってくれるように頼む。しかし彼は完全な禁欲をするだけの勇気がない。彼を虜にしている麻薬は依然として最後の避難場所なのである。つまり、彼は麻薬を衣服の中に隠しておいて、必要な場合に密かに調達できるようにしておく。それと全く同じように、まだ完全に更正しない人間は、どこまでも自分自身のやりくりに頼っている…彼は神に頼っているのではあるが、いざ別の助けが必要だとなった場合のために、いつでも間に合うようにしているのである。
…実際、私たちがこれまで頼ってきたものを放棄し、それをきっぱりと、「すっかり」、そして永久に、放棄することは、回心に関する講義で私たちが指摘したあの根本的な性格の変化の一つを意味する。そこでは、内なる人間が全く違った均衡状態に移動し、それ以後は、新しいエネルギーの中心で生きることになるが、その場合でも、普通このような一切の変動の転回点となり中心となるものは、いわばまっ裸になって欠乏に堪えることを心から受け容れることであるように思われる。
――ウィリアム・ジェイムズ『宗教的経験の諸相』下巻（岩波文庫）